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AI搭載の処方補聴器が30州超へ拡大、遠隔での調整が変える購入後ケアの新しい競争軸

2026年10月18日 コラム 読了目安 約4分

ニュースの概要

米国の補聴器企業Fortellは、AIを搭載した処方補聴器を提供できる地域を、米国の30州超へ広げると発表した。新しい診療拠点を開くことに加え、遠隔の聴覚サービス「Fortell Anywhere」を拡張する。通院が難しい人にも、補聴器の提供、調整、使い始めてからのフォローアップを届ける狙いだ。なお、今回の発表の対象は店頭やネットで買えるOTC補聴器ではなく、医療専門職が関わる処方機器である。オンライン診療と遠隔での音の調整を組み合わせ、購入後の支援まで含めたデジタル型の聴覚ケアとして展開する点が特徴といえる。

引用元: Fortell、AI搭載処方補聴器を30州超へ拡大(Hearing Review)

分析・見解

狙いは機器の販売より「通えない人」の取り込み

補聴器が広がらない理由は、価格だけではない。聴力検査、機器選び、調整、再調整と、何度も店舗や診療所へ通う必要があることも大きな壁である。地方に住む高齢者、運転に不安がある人、仕事で時間が取れない人にとって、この手間は想像以上に重い。

Fortellが30州超へ広げるのは、この壁を低くする仕組みだ。新しい診療拠点で対面の入り口を確保しつつ、Fortell Anywhereで遠隔のフィッティング(=補聴器の音を一人ひとりの聴力に合わせる作業)を行う。完全オンライン型でも従来型の店舗でもない、併用型を狙っている点が重要である。

OTCが広げた入口と、処方機器に残る役割

米国では2022年、軽度から中等度の難聴を対象に、処方なしで買えるOTC補聴器の販売が始まった。入口は広がった。一方で、自分で設定する難しさから、使わなくなる人がいるとも指摘されている。処方機器は聴力の個人差に細かく合わせやすく、より重い難聴にも対応しやすい。

つまりOTCは、処方側に「もっと手軽に」という宿題を出したことになる。Fortellは専門性を残したまま、手軽さへの期待に応えようとしている。OTCと処方は単純な敵対関係ではなく、利用者が行き来する二つの入口として見るのが現実的だ。

AIの価値は機器の中より調整の現場で出る

補聴器のAIというと、騒がしい場所で声を聞き取りやすくする機能が話題になりやすい。しかし遠隔診療では、別の役割も考えられる。使用状況や本人の訴えをもとに、調整の候補を絞ることだ。今回の要約からAIの具体的な使い方までは分からない。ただ、専門家が一人に割ける時間は限られる。下準備を機械が担う設計には合理性がある。

もちろん、AIが専門職の判断を置き換えるわけではない。急な聞こえの低下や耳の痛みなど、医療的な確認が必要な場面を見逃さないのは人の役目である。処方機器として展開する意味は、まさにここにある。

勝負は購入後の数か月に移っていく

2024年にはAppleのAirPods Proが補聴機能を備え、OTCの選択肢も増えた。機器の基本性能の差は、今後縮まりやすい。差が出るのは、買った後に何度でも相談でき、音を直してもらえるかどうかだ。

補聴器は、慣れるまでに数週間から数か月かかる。この期間に支援が薄いと、引き出しにしまわれてしまう。Fortellが購入後の支援を前面に出したのは、継続利用が収益と評判の両方を左右すると見ているからだろう。30州超という数字も、規模の大きさだけでなく、州ごとに違う医療関連の規則をまたいで運用できる体制を整えた点に意味があると考えられる。

ビジネスへの影響

販売店や診療所が見直したい購入後の流れ

まず点検したいのは、購入後の90日間である。使い始めの1週間、1か月、3か月に連絡を入れる計画はあるか。調整の予約を電話やビデオ通話で受けられるか。来店しなくても済む相談と、来店が必要な相談を分けているか。

これらは新しい機器を入れなくても、今日から整理できる。米国の動きを見ると、遠隔化の目的は新規客の獲得だけでなく、既存客を離さないことにもある。再来店の回数が減れば、利用者の負担だけでなく、店舗側の対応時間も減らせる。

日本で応用するときは制度の確認から始める

日本では、補聴器の販売や調整の仕組みが米国と異なる。認定補聴器技能者や耳鼻咽喉科との連携が重視されており、遠隔での調整をどこまで行えるかは、事前に制度や自社の運用ルールを確認する必要がある。いきなり全面導入せず、既存の顧客への再調整の相談から小さく試すのが現実的だ。

見る数字は三つで足りる。継続して使っている人の割合、再来店の回数、一回の調整にかかる時間である。三か月ほど記録すれば、遠隔の相談が効く層が見えてくる。

異業種の参入者が見るべきポイント

通信、見守り、ヘルスケアITの事業者にとって、補聴器は機器単体ではなく、サービスとして売る領域になりつつある。ただし、医療的な確認を担う専門職を外せない点が、参入の条件であり差別化にもなる。提携先を選ぶときは、機器の機能より、フォローの体制と記録の共有方法を重視したい。機器メーカーなら、遠隔調整の履歴を販売店と共有できる仕組みが売りになる。

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