ニュースの概要
デンマークの聴覚ケア大手Demantが、2026年第3四半期の売上高を前年同期比21%増の66億2,400万デンマーク・クローネと発表しました。柱である補聴器事業の売上高は、30億1,200万クローネから35億9,700万クローネへ拡大しています。買収や為替の影響を除いたオーガニック成長率は17%でした。成長の主因は、新しい旗艦プラットフォーム「Oticon Reveal」の発売が好調だったことと、補聴器分野での買収効果です。発売直後の新製品が四半期の数字をここまで動かすのは珍しく、補聴器業界の競争の軸が変わりつつあることを示す決算といえます。
引用元: Demant、Oticon Reveal好調で第3四半期売上高が21%増(RTTNews)
分析・見解
買収効果を除いても17%伸びた意味
今回の数字で最も重要なのは、全体の21%増ではなく、オーガニック成長が17%だった点です。オーガニック成長とは、買収や為替の影響を除いた、本業だけの伸びを指します。つまり増収の大半は、買い足した事業ではなく、既存の事業そのものが稼いだ分だということです。
補聴器は一度買うと数年は使う耐久財です。買い替え需要が中心の市場で、年率17%の伸びは際立っています。新製品の投入で買い替えを前倒しさせ、同時に初めて購入する人も呼び込めた可能性が高いと考えられます。
新旗艦機が買い替えサイクルを動かした理由
Oticon Revealのような旗艦機は、価格帯が高く、1台あたりの売上を押し上げます。販売台数が横ばいでも、高価格帯の比率が上がれば売上は伸びます。これを業界では製品ミックス(=売れる製品の構成比)の改善と呼びます。
近年の補聴器は、雑音の多い場所で人の声を聞き分ける処理にAIを使うのが競争の中心です。家電のスマートフォンが毎年買い替えを促してきたのと同じ構図が、補聴器にも及び始めました。性能差が体感しやすくなるほど、販売店は新型を勧めやすくなります。
買収で販売網を固めるという一手
成長のもう一つの柱は買収です。補聴器業界では、メーカーが販売店チェーンを傘下に収める動きが続いてきました。販売店を持てば、自社製品を直接お客様に届けられ、価格や接客の質も管理できます。
ただし、買収は諸刃の剣です。メーカー系の販売店が増えると、他社製品を扱う独立系の店は不利になります。独立系が離反すれば、かえって販路を失う危険もあります。Demantは新製品の魅力で独立系を引き留めつつ、自前の販路を広げるという難しいかじ取りを迫られます。
好調が続くかを占う三つの注目点
今後の焦点は三つあります。一つ目は、発売直後の需要が一巡した後も成長を保てるかです。二つ目は、競合各社の新型が出たときに価格を維持できるかです。三つ目は、市販の聴覚補助機器(OTC=処方なしで買える製品)の広がりです。安価な製品が軽度の難聴層を取り込めば、高価格帯の補聴器は重度層への特化を迫られます。
発売初期の勢いは、通常の年よりも大きく出がちです。来期以降は、この上振れ分がなくなっても成長を維持できるかどうかが、本当の実力を測る試金石になります。
ビジネスへの影響
補聴器販売店は仕入れと在庫の組み方を見直す
新旗艦機が売れる局面では、旧型の在庫が急に動かなくなります。販売店は旧型を抱え込まず、新型の展示台数と試聴体験の枠を早めに確保することが重要です。一方で、新型は価格が高く、試聴だけで終わる人も出ます。お客様の聞こえの状況を丁寧に測り、必要な性能を見極めて提案する力が、成約率を左右します。
独立系の店は、メーカー系チェーンとの差を、アフターケアの手厚さと複数メーカーを比較提案できる点で打ち出せます。
メーカーや関連企業は買収とAI性能の両面を見る
補聴器メーカーや部品、ソフトウェアの供給企業にとって、今回の決算は二つの教訓を含みます。第一に、AI処理の性能は、数字に表れるほどの購買動機になるという点です。第二に、販売網の確保が競争力の土台になりつつある点です。自社の強みが製品にあるのか、販路にあるのかを見直し、足りない側を提携や出資で補う検討が必要です。
日本市場では高齢化と購入のきっかけづくりが鍵
日本は高齢化が進む一方で、補聴器の普及率は欧州の主要国より低いといわれます。新型の性能向上は、購入をためらう層の背中を押す材料になります。ただし、本人が難聴を自覚するまでには時間がかかります。家族や自治体の健診と連携し、早めに相談できる窓口を整えることが、市場拡大の近道です。