ニュースの概要
SamsungのGalaxy Buds4 ProとGalaxy Buds3 Proに入っている「Hearing Test」と「Hearing Aid」の2機能が、韓国の食品医薬品安全処(MFDS)から医療機器ソフトウェアとして承認された。前者は約5分の純音聴力検査で、左右の耳の聞こえ方をグラフ(オージオグラム)にする。後者はその結果をもとに、聞き取りにくい音域を持ち上げて補う仕組みである。米国でも年内の提供が見込まれている。つまり、普段使いのワイヤレスイヤホンが、検査から補聴までを一台でこなす医療機器の領域に正式に入ったことになる。
引用元: Samsung、Galaxy BudsのOTC補聴機能を韓国で承認取得。米国では年内提供予定(AndroidPure)
分析・見解
「承認」がイヤホンの位置づけを変える理由
これまでも、イヤホンに聴力チェック機能を載せた製品はあった。ただし多くは健康管理の補助という扱いで、補聴の効果をうたうことはできなかった。今回の違いは、機能そのものが医療機器ソフトウェアとして審査を通った点にある。審査を受けるとは、検査精度や安全性を第三者が確かめたということだ。メーカーは「聞こえを補う」と明確に説明できる。利用者にとっても、おもちゃではないという安心材料になる。
5分の検査と補正の仕組みを読み解く
純音聴力検査とは、高さの違う単純な音を順に流し、「聞こえたか」を答えてもらう方法である。病院の検査と原理は同じだ。違うのは環境で、静かな防音室ではなく自宅で行う点である。そこで鍵になるのが、イヤホンの密閉性と、耳の中の音を測るマイクだ。外の雑音を抑え、耳の中で鳴った音を確かめながら補正できる。検査結果は、聞こえにくい音域だけを持ち上げる設定に変わる。眼鏡で言えば、度数を自分で測って自動で合わせるような流れだ。
市販補聴器市場で先行した米国との違い
米国では2022年にFDAが、軽度から中等度の難聴者向けに処方箋なしで買える補聴器の制度を整えた。Appleは2024年にAirPods Pro 2の補聴機能でFDAの認可を得ている。今回のSamsungは、その後を追う形で韓国の承認を取り、米国の提供につなげる動きである。注目したいのは、承認の順序だ。まず自国の審査で実績を作り、次に最大市場へ広げる。AppleとSamsungの競争は、スマホの次に「耳」へ移りつつある。専用補聴器メーカーは、価格と見た目の面で厳しい比較にさらされるだろう。
残る課題は難聴の自覚と、装着し続ける習慣
機能が整っても、難聴を自覚して使い始める人は多くない。補聴器に抵抗がある人でも、音楽や通話で毎日つけるイヤホンなら受け入れやすい。ここに独自の強みがある。「補聴器をつける」という心理的な壁を、「いつものイヤホン」で越えられるのだ。一方で、重い難聴や片耳だけの極端な低下は、機器だけでは対処できない。医師への受診を促す導線を、検査結果の画面に組み込めるかが次の焦点になる。
ビジネスへの影響
補聴器・家電・通信各社が見直すべき価格と売り方
専用補聴器は一台十数万円が珍しくない。数万円のイヤホンで軽度難聴を補えるなら、このゾーンは大きく奪われる。補聴器メーカーは、重度向けの高性能機と、調整や相談といった対面サービスに軸足を移す必要がある。家電量販店や眼鏡店は、補聴機能付きイヤホンを「試せる売り場」に変えると強い。聴力検査を店頭で体験してもらえれば、購入の入り口になるからだ。
日本市場で今から備えておきたい三つの実務
第一に、規制の確認である。日本で同様の機能を医療機器として出すには、医薬品医療機器等法の承認や認証が必要になる。自社で開発するなら、早めに相談窓口へ行きたい。第二に、販売後の導線である。検査で異常が出た人を耳鼻科につなぐ連携先を持つ企業は、信頼を得やすい。第三に、高齢の家族向けの提案だ。設定を子世代がスマホで手伝える運用を示せば、販売の決め手になる。まずは自社の商材が、聞こえの課題とどこで交わるかを洗い出すことから始めたい。